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特定非営利活動法人自閉症eサービス

eコラム

構造化再考⑩これからの構造化支援
 

 これまで10回に渡って、「構造化」をキーワードに検討してきました。私が特に伝えたかった点は、構造化を自閉症理解とセットで考えること、構造化によって本人の生活が豊かになっているかどうかを確認してほしいということです。支援の現場では、今でも、「絵カードを使えばいい」とか「とにかく仕切り用のパーティションを使いなさい」など、乱暴な話をする支援者が多くいることを懸念しています。本来は、自閉症の人がどういうことで困っているか、どういう支援があれば実力を発揮することができるかを真剣に考え、<PLAN-DO-SEE>の支援プログラムのサイクルを丁寧に続けていけば、おのずと構造化の必要性と有用性もわかるのではないかと私は思っています。

 今後、自閉症理解が進み、支援機器もますます便利になり、より洗練された支援ツールが開発されていくことで、自閉症の人たちの構造化支援は進化・発展していくことでしょう。私なりにその方向性を考えると、次のようなポイントがあると思っています。

 1つは、構造化支援を生活の隅々にいきわたらせることです。これまでは、自立課題や教室のレイアウト、授業を進めるための個別スケジュールといった狭い範囲で、特別な対応として構造化が使われることがよくありました。そのためか「社会に出たら構造化されていないから、学校も構造化する必要はない」といった本末転倒の意見を言う先生がいたりするのです。この先、多くの自閉症の人が社会参加していくのと連動して、構造化支援もまた彼らの生活の隅々にまで提供されるべきです。日々の家庭生活はとりもなおさず、運動会や修学旅行といった行事や、一般企業や作業所で働くとき、ガイドヘルパーが付いて買い物に出かけるとき、はたまた病院に入院したり海外旅行に出かけたりするときも、構造化支援は必要になります。私たち支援者は、その広がりに素早く対応していかなければなりません。フィールドはまさに地域生活全般に及ぶわけです。

 もう1つのポイントは、当事者・家族との連携を深め、構造化支援をより機能的にしていくことです。TEACCHではこうした協力関係を当初から強調してきましたが、日本の実情を見ると、構造化は支援者が与えるもの(自閉症の人は与えられるだけ)という関係性が強いように思います。しかしこれでは、個々の実情を考えず支援が一方的になったり、新しい生活場面への対応が遅れたりする危険性があります。構造化のプランナーは特定の支援者に限らず、家族やヘルパー、あるいは当事者自身でもいいし、アレンジやバージョンアップもみんなで考えていくという発想が求められます。特に高機能自閉症やアスペルガータイプの人の場合、ユーザーの意見をもっと聞くべきでしょう。また、自分の気持ちをうまく言葉にできない重度の自閉症の人には、その行動をよく観察し、彼らの立場にたって考える想像力と謙虚さが支援者に求められます。親御さんから話を聞いて、修正を繰り返すことももちろん大切です。

構造化支援の広がりの先に、自閉症のバリアフリーが拓けていると私は思っています。

構造化再考⑨高機能自閉症の人への構造化支援
 

 構造化の話を取り上げると、「それは知的障害が重度の自閉症の人の話で、高機能自閉症やアスペルガータイプの人たちには関係ない」と言われたり、「そんなことより、ソーシャルスキルトレーニングや感情コントロールのプログラムを紹介してほしい」と問い合わせを受けたりすることがままあります。おそらく、構造化というものを、教室を衝立で物理的に仕切ることやスケジュールに絵カードを使うことをイメージしているのでしょう。

自閉症の特性や学習スタイルを考えれば、自閉症の人には(どのような知的レベルであれ)構造化された支援は必須だと私は考えます。自閉症の人向けのソーシャルスキルトレーニングや感情コントロールのプログラムでも、構造化のアイデアは必要です(そうしないと、参加者に無用な混乱や不安を招いてしまいます)。あるいは、最近の優れた自閉症向けの支援技法(たとえば、PECSやコミック会話、CAT-Kit)を見ると、どれも構造化のアイデアがふんだんに取り入れられているとも思います。

高機能自閉症やアスペルガータイプの人たちへの構造化支援とは具体的にどういうものでしょうか。私が実践場面で取り入れているアイデアをいくつか挙げてみます。

①相談場面では、最初に、本人と今日相談したい項目をリストアップしておき、項目にそって1つずつ話をするチェックオフのシステムを取り入れる。そうすることで、今どの話題について話をしているのか具体的になり、スムースに相談をこなしていくことができる。相談で確認したことや積み残したテーマについても、紙に書きだし、本人と確認できるようにする。

②自分の部屋や職場・教室を整理整頓し、本人が居心地よく過ごしやすくするために、レイアウト変更をしたり収納ボックスやレターケースを活用したりするのを手伝う。種類や用途毎に引出しを使い、すべて写真や文字のラベルを貼るようにする。

③本人専用のスケジュール帳やカレンダーを用意し、時間の管理や計画的に物事を遂行することを意識してもらう。アラーム付きの時計やスマートフォンなども積極的に活用する。

④自己理解や感情コントロールのセッションでも視覚的な提示を心がける。たとえば、セッション全体の予定表、自己理解を進めるためのQAやチェックリスト、表情の絵カードなどを使う。

自閉症支援において、「よく話ができるから問題ない」とか「知的レベルが高いから絵や写真で伝えなくてもよい」と捉えているなら、それは支援者の一方的な思い込みです。高機能自閉症の人たちがいかに言葉の使い方や認知面で苦労しているか、たとえば最近できた啓発用DVD『自閉症の人が見ている世界』(朝日新聞厚生文化事業団発行)を観ていただければ、よくわかると思います。高機能自閉症の人たちは、ある程度自分の体験や思いを言語化することができます。彼らの話を丁寧に聞くことから、支援は始まります。

構造化再考⑧構造化とコミュニケーション支援
 

 自閉症の特性を理解すれば、周囲の状況や期待されていることを自閉症の人に「わかりやすく伝える」ための構造化の支援が必須であることがよくわかります。たとえば、言葉の理解が難しい自閉症の人に、言葉以外の方法、具体的には視覚的な方法で伝えることがわかりやすい。刺激に翻弄されやすい自閉症の人には、衝立や家具を使ってレイアウトを見直すといった環境調整が有効です。変化や見通しが読めない自閉症の人に、スケジュールやワークシステムが安心感や自発性を高めます。

 さて、構造化の必要性・有効性が確認されたとして、次に考えないといけないのは、本人たちからの発信や言いたいことをどのように支援したらいいかという点です。つまり、自閉症の人の表現性コミュニケーションをどのように支援するか、というテーマです。こちらが一方的に伝えるだけでなく、自閉症の人の言い分や思っていることもきちんと発信してもらい、お互いにわかりあう、一緒に取り組めることが大事だという視点です。

 筆者が実際に経験したことですが、ある自閉症の青年に視覚的なスケジュールで「これから作業です」と伝えたとき、しかし本人は「もう作業はしたくない!」がうまく言えず、最後はスケジュールの絵カードをビリビリに破いてしまったことがありました。「トイレに行きたい」「おなかがすいた」「明日は何があるか教えてほしい」「手伝ってください」「どんなふうにすればいいですか?」「このお菓子は食べていいですか?」「頭が痛い」「早く帰りたい」「いやだ」・・・と、そういう表現がうまくできず、不安や混乱の中で暮らしている自閉症の人がたくさんいます。

 伝統的なコミュニケーションの指導は、「『はい』と言いなさい」「『ありがとう』と言いなさい」「お名前は?」「『いただきます』は?」と、指導者が自閉症の人に直接働きかけて、正しい言い方を≪言わせる≫やり方でした。しかし、これではうまくいきません。自閉症の人が求めていることを無視しているからです。むしろ、自閉症の人が自分の気持ちや言いたいことを自発的に言うことを阻害し、パターン化した言い方を助長させてしまいます。

 構造化が自閉症の人に「わかりやすく伝える」方法だとすれば、自閉症の人が自分の気持ちや言いたいことを表現していいんだよ、というこちらの意図もわかりやすく伝えることが大切です。ということで、コミュニケーション支援にも構造化のアイデアを積極的に取り入れる必要があります。

代表的なコミュニケーション支援のツールとして、PECS(=絵カード交換式コミュニケーションシステム)があります。PECSの場面設定やフェイズ1から6への系統的な展開は、自閉症の人にはとてもわかりやすい設定になっています。今後は、自閉症の人に使いやすい、絵カードやコミュニケーションブックをデジタル化したiPadやスマートフォンのアプリもいろいろ出てくるでしょう。自閉症支援における構造化のアイデアは、支援機器の進歩によって、より機能性・汎用性の高いものになっていくように思います。

構造化再考⑦ルーティンとシステム
 

 ルーティンは辞書的には「習慣」「決まりきった仕事」のことですが、自閉症支援における構造化の視点でいえば、「自閉症の人は、同じようにやることがわかりやすい、安心する、見通しがもてる」という特性理解が前提になります。その意味で、最近は「馴染む・慣れ親しむ(=familiar)」という用語を使うことも多くなりました。

 支援現場でルーティンが強調されすぎると、「ずっと同じようにやればいい、一切変えないほうがいい」と機械的に解釈する傾向があります。「うちの施設では、自閉症の人が混乱するから行事はやりません」とか、「○○さんの作業は10年前からずっと変えていません」などとよく言われます。あるいは、「自閉症の人には農作業は向きません。天候に左右されやすく、仕事が一定しないからです」と解説する方もいます。

 逆に、「社会に出たら構造化されていないから、学校にいる間にいろんなことに慣れてもらわないと困る」とか言って、視覚支援の導入を拒否し、授業の予定を突然変えたり活動を途中で中止したりするのを正当化する教師がいたりします。

 どちらの対応も、自閉症の特性理解が不十分なのではないでしょうか。自閉症の人は「馴染むこと」「慣れ親しんでいること」が好きだし、そういう状況で能力を発揮することができます。しかし、急な変更や予想外のことが起こるととたんに混乱し、不安が強くなってしまいます(だから、こだわりが強くなるとも言えます)。ですから、ルーティンをうまく使えば、自閉症の人の暮らしは安定するでしょうし、仕事の能率もあがるでしょう。

 しかし、現実問題として、世の中は変化していくということを忘れてはいけません。外出中に雨が降るかもしれないし、電車が事故で止まるかもしれない。4月になればクラスや職場が変わることもある。何よりも、自らが経験し学習していくことで、できることが増え社会との接点が広がるわけですから、かたくなにルーティンを守ることはそれを阻害することになります。

 そういうことで、ルーティンと変化への適応(=新しいことへの経験や学習)という一見矛盾する問題にどう対処していくかが、自閉症支援の大きなテーマになるのです。TEACCHの構造化のアイデアが優れている1つのポイントは、この変化への適応を、<ルーティンをシステムに組み込む>ことでクリアしようとする点だと私は思っています。たとえば、代表的なワークシステムに、左から右の流れ、フィニッシュボックスの使用があります。これは、いつも作業は左から右にしていきましょう。終わったら材料や完成品は右端にあるフィニッシュボックスに片付けましょうと、このシステムを維持するためのルーティンがあります。その上で、さまざまな環境下で、さまざまな作業種に取り組んだとしても、いつものシステムに則って作業をこなしていけばいいのだということを、自閉症の人に伝えていくわけです。ルーティンとシステムを組み合わせて、自閉症の人の自立と社会参加を目指す。構造化の基本戦略がここにあります。

構造化再考⑥視覚的構造化
 
 視覚的構造化には3つのタイプがあります。①視覚的組織化、②視覚的指示、③視覚的明瞭化。自閉症の人の「視覚的にものを考える」という特性に沿ったアイデアです。

 ①視覚的組織化・・・自閉症の人は物事や情報を整理し、関連付け、1つの意味や活動にまとめあげることが苦手です。そのため、例えば、机の上にある材料や部品をバラバラに取り扱って、ミスが出たり物をなくたりしてしまいます。視覚的組織化は、今まさに必要な物や情報を自閉症の人によく整理して渡す作業です。仕事の手順に沿って使う材料や道具を左から右に並べたり、材料の種類毎に容器に入れておくなどの方法があります。

 ②視覚的指示・・・「何をしてほしいのか」、「何はしてほしくないか」を自閉症の人に確実に伝えるために、視覚的なメッセージや手がかりを活用します。文字が読める人であれば、簡単な文章や単語で指示を書いてもいいでしょう。絵や写真、実物の完成品を見せることで、「これと同じものを作ってください」というメッセージを伝えることができます。ジグシートは実物大にかたどった絵やシルエットですが、「そこに同じものを置いてください」ということを伝えることができます。玄関で靴をそろえて置いてほしいときに、靴のジグシートを使ったりします。

 ③視覚的明瞭化・・・大事な情報を目立たせるようにして、自閉症の人がそこに注意を向けやすくするアイデアです。押してほしいボタンに色シールを貼ったり、注意書きの大事な部分をアンダーラインや色マーカーで強調したりします。一方で関係のないものは視界から遠ざけることも大切です。勉強中はおやつを布で覆っておくとか、オモチャは箱に入れて片づけておくようにします。

 視覚的構造化をはじめ構造化のアイデアは、自閉症の人だけ特別に提供するものではありません。街の中には、構造化のアイデアはいたる所で使われています。さまざまな交通標識、駅の中の案内図や時刻表、自動販売機のボタンやコインの投入口、銀行のATMやスーパーのレジに並ぶための足型や仕切り線、レストランのメニュー表、分別するためのゴミ箱・・・。皆さん一人ひとりもカレンダーやスケジュール帳を使っています。コミュニケーションやスケジュール管理に、携帯電話はとても重宝です。パソコンやIPadを使ったテレビ電話もこれから広く普及することでしょう。構造化とは、暮らしやすくする工夫、わかりやすくする工夫に他なりません。佐々木正美先生は、このことを「自閉症のバリアフリー」とよく言っておられます。

結局のところ、構造化を使って何をしたいかが支援者に問われています。家庭や学校・職場、街の中で、自閉症の人が暮らしやすく、わかりやすくと、支援しているでしょうか? 逆に、構造化と称して、狭いエリアの中に押し込んで「変なことをしないように」と監視してはいませんか? もしそうなら、それは構造化が悪いのではありません。構造化をどう使おうとするか、支援者の姿勢に問題があるのです。

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